「 Dの世界 」 エコバックが紡ぐ ショートストーリー


ショートストーリー

ペンネーム:黄身川原プリン

 

 

「久しぶりだな。だけど、うちのボスはああ見えてシャイな人でな。長い間は話せないかもしれない。で、元気だったか?そっちは」

 

 

「まあ、見た通りさ。年相応に老けたよ。」

 

そういう彼は確かに随分とくたびれていたが、それはこちらも似たようなもの。

 

「しかし、昔の仲間に会うなんてな。4年ぶりか?5年か?」

 

「まあ、俺もそれくらいだ。若いのはたまに見かけるがな。このあたりじゃ俺たち世代はお前と俺くらいかもしれない。」

 

全てを達観したような顔で彼が言う。

 

俺たちの仕事はハード。そして怪我でもすればすぐにお払い箱だ。

 

野球選手やサッカー選手も似たようなものだろうが、我々の業界からすればまだ羨ましい。

 

現場に出て、早ければ1週間でオシャカ、火葬場直行。まるでベトナム戦争の兵隊のような「使い捨て」で、それでも毎年、毎月、毎日、新兵が送り込まれてくる。

全く因果な商売だ。

 

だからこそ、昔の仲間に会えると、まるで生き別れた肉親を探し出したくらい嬉しい。

 

「お前が新人の頃、ガチガチで」、「そういえば奴はどうした?」古い友との話は尽きないが、非常のアナウンスが流れる。

 

「次は自由が丘。自由が丘でございます。」

 

別れの時だ。

 

「うちのボス。途中で車両変えるかと思ったんだがな。混んでて身動きとれなかったみたいだ。お陰で随分と楽しかったよ。」

「そうか、ここで降りるのか。。。また、会えると良いな」

「そればっかりは神様に聞いてくれ」

 

わざとおどけた仕草で答える。

「元気でな」お互い目でそう言って別れた。

 

仲間の顔を一目見れば、そいつが誰だか分かるが、傍目には俺たちは一緒かもしれない。

 

白のキャンパス地のどてっ腹には「DELI&DELLCIOUS」と書いてある。

世の中の奴は「エコバッグ」と一緒くたにするが、俺たちはエリートだ。

 

通称「D」そして10年前に前線に送り出された我々は一世を風靡し、その当時、イケてる女子のほとんどは俺達を手にしていた。

 

「Dにあらずはエコバッグにあらず」

 

そう言われるほどの権勢を誇ったのだが、驕れず平家は久しからず。

 

その後は、色々なブランドが群雄割拠し、俺たちは主役の座を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

もちろん「D」の新人は今でも街で見かけるが、やはり当時ほどメジャーじゃないし、ましてや昔の友に会うなんてことはない。なんせ俺たちゃ短命だ。ほとんど死んでるだろう。

 

さっきの奴は若い頃表参道店で並んだ仲で、確か若いOLに雇われていったはずだが、さっき奴を膝の上に置いていたのは中年の女性だった。ロートルとして母親のところに配置転換されたのかもしれないが、そんなこと聞くだけ野暮だろう。

 

対して、うちのボスはずっと俺を使ってくれている。

 

自慢の白のキャンパス地は黄ばみ、それを定期的に漂白剤で落とすもんだから、輝けるDの証のロゴはすっかり剥げ落ちてしまったが、今も昔も俺の仕事はボスの弁当を守ること。

今朝もいつもの東横線。勤務先の自由が丘まで行くところを警護していたら、たまたまボスが立った前に座っていた女性の膝の上に「D」の文字。

 

我々の業界で言うところの「D被り」で、女性、特にうちのボスはやたらと嫌う。

 

とは言え、こちらのロゴはすっかり禿げ上がってるし、言わなきゃ分からん。

 

だんまり決めこもうと思ったのだが、ボスの顔を見るとやけにソワソワしてやがる。

 

「被り」に気付きやがったか・・・仕方ない。

 

相手はどうせ新人だろ、と睨みを利かせてみれば、なんと昔の仲間だったという話。

 

「被り」がバレた以上、うちのボスは間違いなく明日から乗る車両を変える。下手をすれば時間まで変えるかもしれない。10年仕えてきたから俺には分かる。

 

だからはあいつと再び会うことは、おそらく、ない。それはきっと奴も分かっているはずだ。

 

それでも最後に古い仲間に会えて良かった・・・

 

 

 

 

 

 

実はここ数ヶ月。マチの調子が悪い。マチってのは、バッグの底のことだ。

 

角の一部が随分痛んでな。すっかり薄くなっちまって破れるのも時間の問題。

 

人間で言えば老衰みたいなもんで「俺も随分ベタな死に方すんな。」そう思うと何だか笑けてくる。ハッハッハ

でも同情なんて必要ない。10年も現場を張った。そろそろ頃合だ。

 

明日か、1ヵ月後か「終り」は確実に来る。

でもそれは「今」じゃない。だったら仕事をするだけ。

それが俺達Dのプライドなのだから。

 


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